「「知」の試み研究会」の終了に際しての所感

一昨日、サントリー文化財団による第7回「『知』の試み研究会」、通称「山崎塾」が開催されたこと、そして今回をもって「山崎塾」が終了したことは昨日お伝えしたとおりです[1]。

そこで、今回は「山崎塾」に参加させていただいた所感をご紹介したいと思います。

劇作家の山崎正和先生を塾長とし、若手研究者が専門分野に留まらず、広く社会に向けて研究の成果を発信する能力を身につけるとともに、異なる分野の研究者が交流することで異分野横断的な知見をも備えることが、「山崎塾」の主たる目的でした。

この目的を達成するため、「山崎塾」では、発表者に対して、(1)自分の研究の内容を20分で報告する、(2)原則としてパワーポイントは使用しない、(3)配布資料はA4用紙1枚にまとめる、といった条件が課されました。

これは、図像の配置の巧みさではなく言葉を通して聞き手に説得力のある報告を行う能力を向上させるとともに、所定の時間の中で自らの研究を的確に伝達する能力を涵養するための措置でした。

また、「山崎塾」では、毎回討論者が指名され、事前に配布される資料と当日の報告の内容に従ってそれぞれ質問を行いました。

「山崎塾」の大きな特色のひとつは質疑応答の活発さで、専門分野の違いを超えて毎回報告の根本的な問題に迫る質問が数多く提起されたことは、私自身が報告した際には自らの研究のために有用でしたし、他の方の報告の際にも自らの知見を広めるための格好の機会となりました。

そして、研究会には出版社の編集者の皆さんも参加され、書籍を編集する立場から報告者に質問が行われるのも「山崎塾」の特色のひとつでした。

しかし、何より大きな成果であったのは、20歳代後半から40歳代前半までの、ほぼ同世代ながら多大の専門分野が異なる研究者が集まれたことでした。

「山崎塾」の参加者の中には、私が2011年9月から2012年8月までサントリー文化財団の鳥井フェローを務めさせていただいていた際に知り合った方が3名いらしたものの、その他の方は「山崎塾」で初めてお目にかかった方ばかりでした。

そのような皆さんとは、もしかしたら「山崎塾」がなければ知り合うことはなく、それ故に皆さんの優れた能力と豊かな人間性に接する機会は得られなかったことでしょう。

しかも、各分野の最前線で活躍する皆さんの姿を目の当たりにできたことは、私にとって大変な刺激となりました。

こうした得難い経験は、今後、有形、無形の資産として私の研究や教育の活動を支えることでしょう。

それだけに、貴重な機会を提供してくださったサントリー文化財団の皆様や研究会を通して交流を結ばせていただいた出版社や報道機関の皆様、そして、毎回、短い言葉の中に事柄の核心を突く重要な意味を込めてわれわれ参加者を叱咤激励された山崎正和先生のご厚情に改めて感謝申し上げる次第です。

[1] 鈴村裕輔, 【参加報告】第7回「知」の試み研究会. 2017年5月14日,